ビジネスシーンや日常生活において、「誓約書(せいやくしょ)」という言葉を耳にする機会は多いでしょう。
入社時や秘密保持、あるいはトラブルの解決時など、誓約書は「特定の事項を遵守することを一方的に約束する」重要な文書です。
しかし、いざ作成するとなると、「どのような項目を盛り込めばいいのか」「法的効力を持たせるにはどう書けばいいのか」と悩む方も少なくありません。
本記事では、誓約書の基本的な書き方から、法的効力を高めるためのポイント、さらには入社時や秘密保持、SNS利用など、シーン別の具体的な例文を網羅して解説します。
1200文字を超える詳細なガイドとして、プロフェッショナルな視点から役立つ情報をお届けします。
1. 誓約書とは何か?契約書との違いを理解する
まず、誓約書の定義と、混同されやすい「契約書」との違いを明確にしておきましょう。
誓約書の定義
誓約書とは、差し出し人(誓約者)が受け取り人(会社や相手方)に対して、特定の事項を守ることを一方的に約束する文書です。
基本的には、署名・捺印をするのは差し出し人のみであり、受け取り側の署名は不要な形式が一般的です。
契約書との違い
契約書は、二者以上の当事者がお互いに合意した内容を記載し、双方が署名・捺印する文書です。
対して誓約書は「一方向の差し入れ」という性質が強く、主に会社が従業員に対して、あるいは加害者が被害者に対して提出する形をとります。
誓約書の法的効力
「一方的な約束だから法的効力はないのではないか?」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
誓約書に署名・捺印があれば、それは「その内容に同意した」という有力な証拠となります。
もし誓約内容に違反した場合、損害賠償請求や契約解除、懲戒処分の根拠となり得ます。
ただし、公序良俗に反する内容(例:過度な違約金の設定や基本的人権を侵害する内容)は、法的に無効とされる可能性があるため注意が必要です。
2. 誓約書の基本構成と必須項目
どのような種類の誓約書であっても、共通して含めるべき基本構成があります。これらが欠けていると、書面としての信頼性や証拠能力が低くなってしまいます。
- 題名(タイトル): 「誓約書」や「機密保持に関する誓約書」など、内容がひと目でわかるものにします。
- 宛先: 提出先の名称や代表者名を記載します(例:株式会社〇〇 代表取締役 〇〇殿)。
- 提出日: 誓約書を作成・提出する日付を正確に記載します。
- 誓約者の情報: 住所および氏名を記載し、押印します。ビジネスでは認め印でも有効ですが、重要な局面では実印が求められることもあります。
- 前文: 「私は、貴社に対し、以下の事項を遵守することを誓約いたします」といった定型的な導入文です。
- 誓約事項(本文): 具体的に守るべきルールを箇条書きなどで記載します。
- 違反時の処置: 万が一違反した場合の損害賠償や処分についての条項です。
3. 【ビジネス編】シーン別の誓約書例文
ここでは、日本国内の企業で頻繁に使用される誓約書の具体的な例文を紹介します。
① 入社時の誓約書(雇用時)
新入社員が会社の就業規則を遵守し、誠実に勤務することを約束するものです。
例文:
「私は、貴社への入社にあたり、下記事項を遵守することを誓約いたします。
1. 貴社の就業規則その他の諸規定を遵守し、誠実に職務を遂行いたします。
2. 履歴書および提出書類の記載事項に相違ないことを確認し、万一虚偽が判明した場合は、採用取り消しを含めた処分に異議を唱えません。
3. 貴社の名誉や信用を傷つけるような言動は一切行いません。
4. 在職中および退職後において、職務上知り得た機密情報を第三者に漏洩いたしません。」
② 秘密保持誓約書(NDA)
プロジェクトの開始前や、退職時に機密情報の漏洩を防ぐために作成されます。
例文:
「私は、貴社の機密情報の取り扱いに関し、以下の通り誓約いたします。
1. 本件業務に関して知り得た技術情報、顧客情報、営業秘密(以下「機密情報」という)を、厳重に管理し、貴社の事前の書面による承諾なく第三者に開示・漏洩しません。
2. 機密情報を本業務以外の目的で使用しません。
3. 業務終了時または貴社の要請があった場合、速やかに全ての機密情報(複製物を含む)を返却または破棄いたします。」
③ SNS利用に関する誓約書
近年、従業員のSNS投稿による「バイトテロ」や情報漏洩が問題となっており、重要性が増しています。
例文:
「私は、SNS(Twitter, Facebook, Instagram等)の利用にあたり、以下の事項を遵守します。
1. 職務上知り得た未公開情報や顧客の個人情報を投稿しません。
2. 他者の誹謗中傷や、公序良俗に反する内容の投稿を行いません。
3. 貴社のロゴや社内の様子を許可なく公開し、企業イメージを損なう行為をしません。
4. 万一、自身の投稿により貴社に損害を与えた場合、その責任を負うものとします。」
4. 誓約書を「法的有効」にするための注意点
形式を整えても、内容が不適切であれば裁判で否定されることがあります。以下のポイントを必ず確認してください。
過剰な制限を設けない
例えば、退職後の「競業避止義務(同業他社への転職禁止)」について、「日本全国で、永久に同業種への就職を禁ずる」といった内容は、憲法が保障する「職業選択の自由」を過度に侵害するため、公序良俗に反し無効とされる可能性が高いです。
期間を1〜2年、地域を限定するなど、合理的な範囲に設定する必要があります。
署名は必ず「自署」で行う
パソコンで名前を打ち出したものよりも、本人が手書きで署名したものの方が、証拠能力は格段に高まります。「誰が書いたか」という同一性を証明しやすくするため、重要な誓約書は自署を基本にしましょう。
印鑑(印章)の重要性
日本では、署名に加えて押印があることで「本人の真正な意思に基づく文書」とみなされる傾向が強いです。企業間の重要な取引に関わる誓約書であれば、印鑑証明書を添付した実印の押印を求めるのが最も確実です。
5. 誓約書に収入印紙は必要か?
誓約書に収入印紙を貼る必要があるかどうかは、その内容によります。原則として、単に「ルールを守ります」という内容の誓約書は印紙税法上の「課税文書」に当たらないため、印紙は不要です。
ただし、以下のような場合は注意が必要です。
- 第7号文書: 継続的な取引に関する契約(例:継続的取引の基本誓約書)とみなされる場合、4,000円の印紙が必要になることがあります。
- 第1号文書: 債務の承認や金銭の受領などを含む場合、金額に応じた印紙が必要です。
一般従業員から徴収する「入社時の誓約書」や「秘密保持誓約書」には、通常、印紙は不要と考えて差し支えありません。6. トラブルを防ぐための運用アドバイス
誓約書は、ただ提出させて保管しておけばいいというものではありません。以下の運用を心がけましょう。
定期的な見直し
法改正(改正民法、個人情報保護法など)に合わせて、誓約書の雛形をアップデートすることが重要です。特にSNSの普及やリモートワークの導入など、時代背景に合わせた条項の追加が必要です。
説明の記録を残す
無理やりサインさせられたという「強要」を主張されないよう、内容を十分に説明し、理解した上で署名をもらうプロセスを大切にしてください。説明会を行った際の資料や議事録も、間接的な証拠となります。
まとめ:正しい誓約書でリスクヘッジを
誓約書は、ビジネスにおける「防波堤」です。
入社時やプロジェクトの始動時、あるいはトラブルの和解時に、明確な言葉で約束を明文化しておくことで、将来的な紛争を未然に防ぐ、あるいは発生した際に迅速に解決することが可能になります。
本記事で紹介した書き方や例文を参考に、自社の状況や目的に合わせた最適な誓約書を作成してください。
もし内容が極めて複雑な場合や、多額の賠償に関わる場合は、一度弁護士などの専門家にリーガルチェックを依頼することをお勧めします。
正しい知識に基づいた誓約書の作成は、企業の信頼性を高め、誠実な職場環境を維持するための第一歩となります。ぜひ、今日から実践してみてください。